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SDW小説

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ワタシ作ゲーム「the record of stardust war's」のノベライズでございます。
文章はヘボいのですが、アサトー氏によるイラストがカッコいいのです。



the record of stardust war's  Chapter : 01 「接触」

   腕に自信はあった。

テクニカルスクールでは、競技用軽アストロイドでの操縦技術コンテストで二年連続で優勝した。

その後工業コロニー「アルソン」のトップ企業「ゼオラル重工」に就職し、開発部での技術職を経てテストパイロットとなった。

コウ・アキヅキにとって、テストパイロットである事は誇りであった。


職業軍人のアストロイドパイロット達は、決してテストパイロットなどになろうとは思わない。

アストロイド(汎用人型空間戦闘兵器)が主に活動するのは宇宙空間である。

宇宙空間に於いて、最も大切なのは、「故障しない」事である。

宇宙には空気がない。

救援が期待できない状況で機体が動かなくなる事は即、死を意味する。

故に全く信用の置けない新型機などには、誰も乗りたがらない。

テストパイロットが散々、ありえもしない状況までをシミュレートした実機でのテストを行い、調整、検査した後メーカーのお墨付きが下りてロールアウトされるのである。


今日コウは、極秘開発中の新型機「アクセル・ホーク」の最終テストを行う予定だった。

極秘開発とは言うものの、それはいつもの事、と言うより兵器開発においてはそれが当たり前のことだし、せっかくロールアウトした機体がその後量産機となり世に出ること無く、莫大な開発費を使ったものの1台限りの生産で終わる事も少なくない。

本日のメニューは限界性能値での空間戦闘テストである。機体だけでなく兵装のテストも兼ねているので、実弾でのテストを廃棄コロニーの処分宙域において、ダミーや廃コロニー宙域のダストなどを用いて行われる予定であった。

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「こいつら何なんだ?!」コクピットのコンソールを叩きながら、コウは自身の心拍数の上昇を感じていた。


普通テスト空域にはコウ一人だけが赴き、テストの邪魔にならない遠方にて開発主任以下のスタッフが「アクセル・ホーク」をモニタリングするのが常である。

が、廃コロニー宙域に到着したコウを待っていたのは、しかし予定に無い2機の黒いアストロイドであった。

そして、その2機のアストロイドはいきなりコウに襲い掛かってきたのである。


「いきなり撃ってきた!?くそッ!!」

コウはスロットルを踏み込み急加速で何とか回避する。

何事か、と主任に確認を取ることすら出来ない。

突然の出来事にパニックを起こしているのである。

にもかかわらず不意打ちの初弾をかわし得たのは、新型機の性能だけでは無かったろう。

興奮、緊張、パニック それらがコウからいつもの操縦テクニックを奪い去っていた。

腕も足も強張り大雑把な動きしか出来ない。

スロットルを全開に吹かしてやたらに大きく回避運動を取る事しか出来ないのだ。

レーダーの赤い光点が増える。

「敵機が増えている?!」しかし、コウは極度の緊張により視界が狭まり一体敵機が何機いるのか、自分の目がレーダーを見ているのかメインスクリーンを見ているのかさえ分からなくなっていた。

混乱した視界の中でコンソール脇に貼り付けた一枚の写真が、なぜかそこだけ鮮明にコウの目に飛び込んできた。

コウの家族、アキヅキ家のポートレートであった・・・・




Chapter : 02 「コウ・アキヅキ」

そのポートレートには母と並んだコウ、そして後ろには三人の姉が笑っている。
父親は写っていない。

父はコウが物心付く前に他界していた。

赤ん坊のコウを抱く父の写真も見たことはあるが、父親という存在を知らずに育ったコウにはいまいちピンと来ない。

明るくやさしい母と活発な三人の姉に囲まれて暮らした。

近所に同年代の男の子がおらず、自然と姉の友達と一緒に遊ぶ事が多かった為であろうか、

ジュニアクラスからシニアクラスに進級した頃、クラスメイトから「男らしくない」と言われた。

女らしいという意味ではないが、男らしさ、無骨さの様なものがコウには無いらしかった。

コウ自身は物事を気にしない性質なのか、悩む様子も無かったが弟を馬鹿にされたと感じた姉達から「なにか男らしい事でもやってみろ」と言われ機械工作クラブに入った。

技術系というのはコウからしてみれば十分に男らしいモノだったからだ。

無線コントロール式のロボットを作ったりするのはすごく面白く、ジュニアクラスにいる間中クラブに熱中した。

そしてテクニカルスクールに進学し、アストロイドの操縦技術を習得すると共にアストロイドクラブに入って更に技術を磨いた。もっとも、アストロイドマニアのミカムラ教授が後部の教官席に陣取っては終始大声で喚き立てるのには閉口したものだが。

スクールでの3年間をアストロイド漬けで送ったコウは、そのままアストロイド産業のトップ企業「ゼオラル重工」へと進路を進める。
軍に入り、アストロイド乗りとなる道もあったが、実戦はしたいとは思わなかった。

クラブの競技会でも技術を競技こそすれ、模擬戦などの危険な競技は行っておらず、戦闘シミュレーションもあったがコウはあまり好きではなかった。

それどころか20歳になる今日まで、殴り合いの喧嘩すらしたことがない。

「男らしくなれ」と、コウが今までの殻を破る事を望んだ姉達に対し自分は新たな殻を纏っていただけなのではないだろうか・・・

好きなことだけに夢中になり、他の事に対してはなんとなくただボンヤリと生きてきたような感じがしていた。

写真の中から母と姉達が微笑みかける・・・

「母さんはいつも「コウなら大丈夫。」って励ましてくれた。姉ちゃん達はいつも「しっかりしろよ!」って尻を叩いてくれたっけ・・・」

一枚の写真がコウをパニックから引き戻してくれた。
緊張はしている、興奮もしている。
だが、見失った自分を取り戻すことが出来た。

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「やってやる!」

コウの中で何かが弾けたかのようであった。

彼の機体「アクセル・ホーク」のエンジンが、応えるかの如く唸りを上げた。

コウはスロットルを通じて響いてくるエンジンの脈動を感じ取りながら、漆黒の闇より迫り来る敵を睨んだ。

コウ・アキヅキの初めての戦いの幕が上がった。 



Chapter : 03 「シューティング・スターズ」

工業コロニー「アルソン」のトップ企業「ゼオラル重工」はアストロイド製造に於いて並ぶ者の無い地位を誇っている。

ゼオラル重工の規模から言えば、アストロイド製造は一部門に過ぎないのだが、それでもその巨大な市場販売力をもってアストロイドのシェアの過半数を占めているために「アストロイドといえばゼオラル」という風潮が出来上がっていた。

もちろん当初宇宙空間での作業用マシンとして発達して行った経緯から現在でも純然たる作業用アストロイドもあるが、戦争などする余裕のない惑星開発期が終わりコロニー及び火星での生活基盤が磐石のものとなるやアストロイドは一転、兵器としての側面を見せ始めた。

コロニーに暮らす人々にとって生活の基盤たる「仕事」が必要であったし、その為の「産業」としてのアストロイドメーカーであることは「ゼオラル重工」も否定はしなかった。

しかし、ゼオラルの創業者である「ヨウイチロウ・ソノダ」は単なる利益主義者では無かった。

いたずらに軍備を増強する事を良しとしなかったのである。
その為、必要以上のスペックを軍事用アストロイドに与えなかった。

そして、まずアストロイド製作のノウハウを一手に握っている間にアストロイド市場を「ゼオラル重工」が独占できるよう努力した。

他社による高性能アストロイド開発の力を最初に削ろうとしたのである。

そしてそれはなかば成功するが、やはり他社の技術が時間と共に向上することは止めようが無く、また自社内から「ゼオラルに更なる高性能アストロイド開発の意思なし」との不満を持つ者が出始め、これらの技術者がゼオラルを離反し新しく企業を起こすというような事態となり、遠からずアストロイドによる戦乱が予想された。

戦争が起きるのも終わるのもそれは「政治」によるものであり、アストロイド開発を悔やもうがそれは止められる事ではない。

戦う意思を持つ者どうしはともかくとして、戦う力、自らを守る力を持たざる者にまでアストロイドが被害を与える事は回避したいと「ヨウイチロウ・ソノダ」は考えた。

そこで、極秘裏に私財を投入して私設の戦闘部隊を作る事を思い立ったのである。

部隊を作り、支援する。
しかし、この部隊はヨウイチロウの指示ではなく、独自の判断で動くものとする。

誰の部下でもなく、誰の命令にも従わない。
自らの良心を指針とする事を望んで作られた部隊は、名を「シューティング・スターズ」と言った。

軍隊ではないので職業軍人の様な者は入れなかった。
その分、多方面より才能のある人間を集めた。
野心を持たず、力に溺れず、何よりも平和を望む者。

集まった最高のメンバーに対し、ヨウイチロウは軍事用アストロイドに採用しなかった最高スペックのアストロイドを与えた。

ヨウイチロウはもともと技術者であった。

その開発から今日まで係ってきたアストロイドを愛していたのだ。

「アストロイドが人々を幸せにするために生まれてきたものであると思いたい。」

ヨウイチロウはその願いを流れ星に託したのである、「シューティング・スターズ」に・・・・

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Chapter : 04 「ティンカー・ベル」

ゼスト連合軍の正式アストロイド「ワイバーン」パイロット、ケネス伍長は当初今回の出撃は、ゼスト連合から独立しようとするコロニーへの牽制であり、睨みを効かせるだけで、実際の戦闘は無かろうと聞いていた。

しかし状況の変化による作戦内容の大幅な変更を告げられたのが1時間前。

コロニー側の工作員による廃コロニーを利用した大規模テロを察知、これを未然に防ぐ為にコロニー工作員に先んじて廃コロニーを奪取するという物であった。

(実の所は指揮官ボードヴィル少将による独断行動であり、ボードヴィルこそが廃コロニーによるコロニー群への攻撃を企てていたのであるが彼の様な下級兵士には真相は知らされていない)

そして、部隊が廃コロニーに到着した時そこには正体不明の赤いアストロイドが既に戦闘装備で待ち構えていたのである。

必然、戦闘になった。

ケネス伍長は赤い機体と味方機の戦闘に加わるべく、赤い機体の背後に回り込もうとした。

1対多数の戦闘では常に全周囲に気を配らねばならないのだが、言うは易し、というヤツで目の前の敵との戦闘に集中すればするほど背後などにかまってはいられなくなるのである。

しかしそこへ敵の増援が現れた。
緑い機体とピンクの小型機。

そして、そのピンクの機体に今翻弄されている。




「なんて速さだ?!まるでついて行けない!」ケネス伍長の口から、知らず漏れていた。

右かと思えば左。
正面に捕らえたと思えば次の瞬間いきなり背後を取られていたりする。
同じ型の機体が何機も居るのではないかと錯覚したほどだった。

爆発的な加速力であった。

最高速という事であればケネス伍長の「ワイバーン」もまた、最高速で動いている訳ではない。

ドッグファイト時に於いて最高速で戦闘しては、機体はともかくパイロットがついて行けないのだ。

自機と敵機がそれぞれ高速移動している際にあまりにスピードが速いとお互いの相対位置を見失ってしまうからである。

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「ミホ・コバヤカワ」はよく跳ねる子供だった。

性格はおとなしいのだが、体を動かす事が好きでいつもそこいらを跳ね回っていた。

スクールでは体操とフィギュアスケートを掛け持ちでやった。

どちらの競技も演技の正確性を問うものだが、ミホにとってはそんなものはどうでもよかったからとにかく飛んで跳ねて回っていた。楽しくて仕方なかった。

正確性に欠けていたので成績はイマイチであった為、体操やスケートで将来を確立するにはいたらなかった。

スクール卒業後のある日、ミホより2年先輩であった「ナオミ・シラカワ」から声が掛かった。

「面白い事があるから来い。」と言われて出かけた先でいきなりアストロイドに乗せられた。

もちろん操縦のレクチャーやシミュレーションを受けた上でだが、ミホはアストロイドを少しも怖がらなかった。

あのナオミ先輩が面白いというならさぞかし面白いのであろう、というのんきな気持ちだった。

そして、初めて乗ったそれは最高だった。

重力から開放された空間で、縦横無尽に跳ね回った。
縦、横、斜め。いくら旋回しても地面に落ちる事が無い。
どこまでもまわり続けることができた。

ミホの操縦センスはまさに天才的であった。

しかし、まわりの人間をさらに驚かせる出来事が起こった。

ミホの操縦技術に安心してナオミは好きに飛ばせていたのだが、ミホの機体のオートナビゲートが故障していた事が判明し、その時ミホの機体は既に見えなくなっていた。

あわてるナオミ達をよそに、ミホはたっぷり楽しんだ後でナビゲーション無しであっさり帰ってきたのだった。

ミホは空間把握能力がズバ抜けて高かったのである。

どんなスピードでどれだけ回転しながら移動しても、決してもとの位置や対象物の相対位置を見失わないのである。

そんなミホに似合った機体をシューティング・スターズは用意した。
並ぶものの無い高い機動力を持った機体「ティンカー・ベル」であった。

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ケネス伍長は現れては消える小型機と戦いながら、半ばその機体を照準サイトに捕らえる事を諦めていた。
戦っているのが自分だけのような気がしてきたからだ。

この小さなマシンは自分をからかって、くるくると舞っているだけなのではないかと思えてきたのだ。

戦場に於いて楽しげに舞う美しい機体を見ながら、ケネス伍長はまるで子供のころに読んだ本に出てきたいたずら者の妖精、ティンカー・ベルのようだと思った・・・
イラスト:アサトー様


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